安樂智大の現在
パワハラ問題により処分された安樂智大(あんらくともひろ)が、メキシカンリーグでの再挑戦を目指すことになりました。彼の新たなスタートとなるのは、メキシカンリーグにおける名門、メキシコシティ・レッドデビルズです。キャンプへの「招待選手」としての参加が報じられていますが、中南米のプロ野球リーグに詳しい関係者たちは、この参加が実質的にチームへの加入を意味するものと解釈しています。
昨年11月には、後輩に対するパワハラ行為が明るみに出て、球団から自由契約という形での処分が下された安樂。しかし、その際の記者会見で、森井誠之球団社長は彼の将来を完全に否定するものではないと述べ、必要であれば支援を惜しまない姿勢を示しました。
「2024年シーズンには間に合わないかもしれませんが、2025年の復帰は考えられるか?」という質問に対しては否定的でしたが、球団の温かい意志は伝わってきます。
特に、自由契約という形を選んだことには、彼が他の球団でプレーする道を残した球団の配慮が感じられます。任意引退だった場合、楽天の許可なしには他球団との契約ができないためです。実は楽天には台湾プロ野球リーグに楽天モンキーズという球団もあり、パワハラ問題が表面化したタイミングで、モンキーズの2024年体制が発表されました。イーグルスで一軍バッテリーコーチを務めた古久保健二が監督に、投手コーチにはイーグルスOBの川岸強が就任しました。
そのため、安樂がモンキーズへ移籍するのではないかという予測が多くありましたが、彼の再起の場がメキシコであると知った際、多くの関係者が驚きを隠せなかったことでしょう。
【招待選手】元楽天の安楽智大投手 メキシカンLのメキシコシティ・レッドデビルズのキャンプに参加https://t.co/dAbGzq2S6y
安楽は昨年11月、後輩選手へのパワハラ疑惑が表面化。球団から事実上の解雇となり、拠点を国内の違う場所に移して現役続行を目指していた。 pic.twitter.com/tnnPVvU3xy
— ライブドアニュース (@livedoornews) February 24, 2024
安楽智大のパワハラとは
安樂智大投手が後輩選手に対して行ったパワーハラスメントの内容は、非常に問題のあるものでした。具体的には、ある選手に対して「倒立をしろ」と命じ、その状態で下半身を露出させるよう強要し、さらには陰部に靴下をかぶせるという行為が行われました。他にも、指導を装って「アホ」「バカ」といった罵声を浴びせたり、食事の誘いを断ったり電話に出ないことを理由に人格を否定する言葉を投げかけたりするなど、精神的な圧迫も加えられていたのだとか。
また、罰金を名目に金銭を要求する行為や、春季キャンプ中には平手打ちをしてむち打ち症状を引き起こさせたという証言もあり、これらの行為はすべてパワーハラスメントとして認定されました。これらの行動は、単なる暴力や暴言にとどまらず、いじめとしても捉えられるもので、極めて幼稚かつ許されざるものでした。
球団や球界全体がこれまで暴力や暴言に対して比較的甘い態度を取ってきた背景もあり、このような問題が表面化するまでに至りました。指導者の中には、過去に自らが受けたパワーハラスメントを正当化するかのような態度を取る者もおり、この問題は根深いものがあります。
安樂投手の行動については、単に個人の問題として片付けることはできず、再発防止のためには過去に遡っての検証が必要です。日本の伝統的な価値観では、他者への敬意を重んじ、特に子供に対する厳しい体罰は推奨されてこなかったことを考えると、今回の事案は日本社会の価値観とも相容れないものです。
他者への敬意の欠如が根底にあるこの問題は、安楽投手個人の問題に留まらず、より広い社会的な問題として捉え直す必要があります。球界だけでなく、社会全体でこのような行為を許さない文化を育てていくことが求められています。
安樂智大が加わるレッドデビルズとは
安樂智大が新たに加わるレッドデビルズは、ロベルト・オスナが福岡ソフトバンクホークスに移籍する以前に在籍していたチームです。オスナは2019年、アストロズに所属していた時にセーブ王を獲得するなど輝かしい実績を持っていますが、女性への暴力問題が表面化したことで、MLBの球団との契約が困難になり、母国であるメキシコのレッドデビルズでプレイするチャンスを模索していました。その後、彼の千葉ロッテマリーンズへの加入が決まりました。
2022年には、「ロッテによる調査が彼の来日のきっかけとなった」とも伝えられています。メキシカンリーグと日本プロ野球(NPB)の間には、数多くの関係者が存在し、安樂のケースでも、これらの繋がりを通じて話が進んだと考えられます。
巨人に所属するメンデスは、日本に来る前にメキシカンリーグのモンテレイで活躍していました。同様に、元横浜DeNAベイスターズの乙坂智も、2021年に戦力外通告を受けた後にレッドデビルズと契約しました。中南米の選手と比べてパワーで劣るかもしれませんが、基本に忠実なプレイや捕球、走塁技術の高さは評価され、「さすが日本人選手」「WBSCランキング1位の国の選手だ」と高く評価されているようです。
メキシカンリーグは20チームから成る2リーグ制で、4月から始まる半年間にわたって110試合が行われます。メキシコにおける野球選手の人口に関しては、サッカー人口を10とした場合、野球はそれの半分以下であると言われています。
それでも、WBCやプレミア12などの国際大会でメキシコ代表がしばしば上位に進出することから、メキシコは野球の強豪国の一つであることがわかります。さらに、WBSCが最近発表したランキングでは、「1位日本、2位メキシコ、3位アメリカ、4位韓国」となっており、プロリーグのレベルの高さがうかがえます。日本人選手の技術力も認められており、オスナの例のように過去の問題を受け入れてもらえる場合を考えると、安楽にも再起の可能性は十分にあります。
いきなりアメリカよりも日本人には割と寛容なメキシコという環境の方がいいのかもしれません。
メキシコの野球環境
メキシコ・シティ国際空港に最初に到着した時、その規模が日本の小さな空港と似ていることに気づくと思います。メキシコの人々は、アメリカ人ほど体が大きくなく、日本人と体格が似ていますが、空港内では兵士が機関銃を持って警護している姿も目立ちます。
球場へ足を運ぶと、日本の野球環境の恵まれた状況がよくわかります。砂漠の中にあるような球場もあり、強風のために内野からの送球が逸れたり、バッターが風のために目をあけるのが難しい場合もあります。日本ではこのような状況でドーム球場の建設が議論されるかもしれませんが、メキシコでは野球は屋外で行われるスポーツとの考えが強く、問題視されません。
宿泊しているホテルから球場までの移動は、マイクロバスで数時間を要することもあります。出発時は暑さを感じて半袖で出かけますが、試合前の練習時には気温が下がり、長袖を持参しなかったことを後悔することもあるようですね。寒暖差に慣れるのが大変かもしれません。
試合前に球団スタッフから、スタンドの特定の方向を見てはいけないと警告されることもあります。ある方向には絶対に目を向けないようにとの指示があることも。その理由は地元の有力者の愛人が試合を観戦しており、彼女と目が合うことや、彼女への応援に応えることがトラブルの原因になるからです。
食事の好みは、日本人選手に大きな影響を与えます。地方では、砂地にテーブルを設置しただけの飲食店も見られます。
ホテルで温かいシャワーを期待しても、冷水しか出ないこともあるのだとか。また、夜中に選手が集まって歌うこともあり、騒音に感じて注意しても一緒に歌おうと取り付く島もないことも。
ラテン系のノリについていけるかが一つのカギ。日本人選手に対しては一般的に好意的で、他の中南米地域と比べても治安が良好で、報酬面でも恵まれていると言われています。
ただし、「投手・安楽」にとって挑戦となるのは、球場の条件です。高地に位置する球場が多く、ホームランが飛びやすい環境です。直球を得意とする彼には、ピッチングスタイルの調整が求められるかもしれません。メキシカンリーグでの経験が、彼にどのような影響を与えるか、楽天の関係者も注目していることでしょう。