はじめに
セメントは、建築や土木工事において重要な役割を果たす接着材です。
水や液剤と反応することで硬化し、強固な構造を形成する特性を持ちます。
狭義では、ポルトランドセメントや混合セメントといった水硬性セメントを指しますが、広義ではアスファルト、石膏、樹脂などの接着剤全般を含むこともあります。
現代のインフラ整備において、セメントはコンクリートやモルタルの主要成分として利用されており、住宅、道路、橋梁、ダムなど、幅広い分野で欠かせない存在となっています。
セメントはその汎用性と耐久性により、現代社会の基盤を支える極めて重要な素材です。
その用途は単なる建材に留まらず、都市部の再開発や防災インフラの強化、さらには環境負荷低減を目指した技術開発にまで及んでいます。
このように、セメントは技術革新とともに進化を続け、現代社会の持続可能な発展にも寄与しています。
歴史的背景と現代社会におけるセメントの重要性
セメントの利用の歴史は非常に古く、最初の使用例は古代エジプト時代にまで遡ります。
ピラミッド建設の際、モルタルとして使用された記録があり、この技術がセメントの起源とされています。
また、古代ローマ時代にはポゾラン(火山灰)を混合したローマン・コンクリートが開発され、水中工事や壮大な建築物の建設に大きな役割を果たしました。
パンテオンやローマ水道など、現存するローマ時代の建築物は、その耐久性の高さを象徴する例と言えます。
しかし、中世ヨーロッパでは技術の衰退により、セメントの利用は一時的に停滞しました。
それでも、産業革命期になると建築技術の進歩とともにセメントの需要が再び高まりました。
特にイギリスで発明されたポルトランドセメントは、近代建築と土木工事を支える基盤となりました。
このセメントは、硬化速度や強度の面で従来のセメントを大きく上回り、世界中で広く普及することになりました。
日本においては、幕末にフランス製のセメントが導入されたのが最初の例とされています。
1875年、深川セメント製造所において日本初のポルトランドセメントが製造され、その後、セメント工場が全国に広がりました。
このようにして、日本でもセメントは近代化の象徴として広く利用され、都市インフラや産業の発展に寄与しました。
現代社会では、セメントは単なる建材に留まらず、災害復興や持続可能な開発においても不可欠な素材としての地位を確立しています。
その製造工程や使用方法において、環境への配慮が進む中、セメント産業はCO₂削減やリサイクル技術の革新に向けた取り組みを積極的に進めています。
このような取り組みは、環境問題の解決とともに、次世代の建築技術の基盤を築くことにもつながるでしょう。
セメントの性質と種類
セメントとは、建築や土木工事における接着材の一種であり、水や液剤と反応して硬化し、構造物を強固に接着する特性を持つ粉体です。
セメントはその特性によって、幅広い用途に利用されており、現代の都市開発やインフラ整備に欠かせない素材となっています。
しかし、「セメント」という言葉は文脈によって異なる意味で使用されることがあり、広義にはアスファルトや石膏を含む接着剤全般を指し、狭義にはポルトランドセメントを主体とした水硬性セメントを意味します。
特に狭義のセメントであるポルトランドセメントは、現代の建築と土木工事における標準的な素材であり、その性能や用途は他のセメントに比べて極めて優れています。
以下では、セメントの定義を狭義と広義に区別したうえで、主なセメントの種類について詳しく解説します。
セメントの定義と狭義・広義の区別
広義のセメントは、さまざまな材料を接着するための接着剤全般を指します。
この定義にはアスファルト、石膏、樹脂、石灰、さらには膠(にかわ)などの自然素材も含まれます。これらの材料は用途や目的に応じて選択され、それぞれ独自の特性を持っています。
一方、狭義のセメントは、水硬性セメントを指し、主に水と反応して硬化する性質を持つ材料を意味します。
この中でも特にポルトランドセメントは、建築や土木工事の主流となるセメントであり、現代社会の基盤を支える素材として広く普及しています。
ポルトランドセメントは、その強度と硬化速度のバランスが優れているため、あらゆる規模の工事に対応できるのが特徴です。
主なセメントの種類
セメントは用途や性能によっていくつかの種類に分類されます。
主に以下の3つが一般的な分類として挙げられます。
ポルトランドセメント
ポルトランドセメントは、石灰石と粘土を高温で焼成し、その後粉砕して得られる水硬性セメントです。
1824年にイギリスのジョセフ・アスプディンによって発明され、その名はイングランドのポートランド石の色調に由来しています。
現在のセメントの主流であり、建築や土木工事のほぼすべての分野で使用されています。
ポルトランドセメントには以下のような種類があります:
- 普通ポルトランドセメント: 一般的な工事で使用される標準的なセメント。
- 早強ポルトランドセメント: 短期間で高い強度を発揮するタイプ。
- 中庸熱ポルトランドセメント: 水和熱が低く、大型構造物に適したタイプ。
- 白色ポルトランドセメント: 装飾用途に適し、美観が求められる場面で使用。
混合セメント
混合セメントは、ポルトランドセメントに混合材料を加えたセメントです。
高炉スラグやフライアッシュ、シリカフュームなどを混合することで、特定の性能を付加することが可能です。
これにより、コスト削減や環境負荷低減が図れるため、近年では需要が高まっています。
主な混合セメントの種類:
- 高炉セメント: 高炉スラグを混合し、耐久性と環境性能に優れる。
- フライアッシュセメント: 石炭灰を混合し、流動性と耐久性を向上。
- シリカセメント: 化学工場などで使用される耐薬品性に優れたセメント。
特殊セメント
特殊セメントは、特定の用途や条件に特化したセメントです。
例えば、緊急工事や耐火構造物に使用されるアルミナセメントは、その高い耐酸性と早強性で知られています。
また、ジェットセメントや膨張セメントは、特定の環境や用途に応じた性能を発揮します。
特殊セメントは、標準的なセメントでは対応できない特殊条件下での利用を可能にする重要な素材です。
セメントの歴史
セメントの歴史は古代文明にまで遡り、建築の進化とともに発展してきました。
古代エジプトやローマ時代のセメント利用は、モルタルやコンクリートの基礎を築き、現在のセメント技術の礎となっています。
その後、中世ヨーロッパで一時的に利用が減少したものの、産業革命を契機に再び注目され、現代社会のインフラ構築に欠かせない素材へと進化しました。
特にポルトランドセメントの登場は、セメントの歴史における画期的な出来事であり、日本においても近代化の過程で重要な役割を果たしました。
古代エジプトやローマ時代のセメント利用
セメントの使用例として最も古いものの一つが、古代エジプトのピラミッド建設です。
紀元前2600年頃に建設されたギザのピラミッドでは、石材を接着するためにモルタルが使用されていました。
当時のセメントは主に気硬性セメントであり、乾燥によって硬化する特性を持っていました。
さらに、古代ローマ時代になると、セメント技術は大きな進化を遂げます。
ローマ人は火山灰や軽石と石灰を混合したポゾランセメントを開発し、水硬性を持つローマン・コンクリートを広く使用しました。
これにより、水中工事や大規模な建築物の建設が可能となり、パンテオンやローマ水道、カラカラ浴場などがその代表例です。
ローマン・コンクリートは、その耐久性と施工の柔軟性で、現代のセメント技術にも影響を与えています。
中世ヨーロッパでの利用の減少とその背景
古代ローマの崩壊後、セメント技術は一時的に停滞します。
中世ヨーロッパでは、石造建築が主流となり、セメントは建材の接着に使われる程度に留まりました。
特に水硬性セメントはほとんど利用されず、技術的な後退が見られました。
この背景には、建築技術の変化や経済的要因が影響しています。
石材の利用が普及するとともに、高度なセメント技術の需要が減少したため、セメントの製造や研究が停滞しました。
しかし、一部の地域では伝統的なセメント技術が細々と受け継がれ、次の時代の技術革新の基盤となりました。
産業革命以降の発展とポルトランドセメントの登場
18世紀の産業革命は、セメント技術の復興と発展をもたらしました。
建築や土木工事の需要が急増し、従来のセメントでは対応しきれない問題が生じたため、新しいセメントの開発が進められました。
この過程で登場したのがポルトランドセメントです。
1824年、イギリスのジョセフ・アスプディンがポルトランドセメントを発明しました。
彼は石灰石と粘土を混合して高温で焼成し、その後粉砕してセメントを製造しました。
このセメントは硬化速度が速く、施工の効率を大幅に向上させることができたため、瞬く間に世界中に広まりました。
ポルトランドセメントは、産業革命期の建築技術を革新し、現代セメントの基盤を築きました。
さらに、ジョセフの息子であるウィリアム・アスプディンは、セメント製造技術を改良し、現代的なポルトランドセメントの基礎を完成させました。
この技術革新により、セメントは大規模なインフラ整備や都市開発に欠かせない素材となりました。
日本におけるセメントの導入と製造の始まり
日本におけるセメントの歴史は、幕末にフランス製のセメントが輸入されたことから始まります。
明治時代になると、近代化政策の一環としてセメントの国産化が進められました。
1875年、日本初の官営セメント工場である深川セメント製造所が設立され、工部省技術官の宇都宮三郎によってポルトランドセメントの製造が成功しました。
その後、1881年には山口県小野田市に民営セメント工場が設立され、日本国内での生産体制が強化されました。
これにより、セメントは日本の近代化を支える重要な素材として広く利用されるようになりました。
1924年にはセメント連合会が設立され、生産体制や品質管理がさらに整備されました。
これにより、国内でのセメント需要の増加に対応し、都市部のインフラ整備や産業発展に寄与しました。
今日、日本のセメント産業は技術革新と環境対応を進めながら、国際競争力を高める取り組みを続けています。
セメントの製造工程
セメントは複雑な製造プロセスを経て生産され、その品質や特性は主に使用される原材料と製造工程に依存します。
原材料の選定から焼成、粉砕、最終的なセメントの仕上げまでの各工程が密接に関連し、最終製品の性能に大きな影響を与えます。
また、近年では製造工程における環境配慮が重視され、廃棄物の利用やエネルギー効率の向上が積極的に進められています。
原材料とその選定(石灰石、粘土、フライアッシュなど)
セメントの主な原材料は、石灰石、粘土、鉄鉱石、さらには補助材料としてフライアッシュや高炉スラグが使用されます。
これらの原材料は、セメントの種類や用途に応じて慎重に選定され、混合比率が調整されます。
石灰石はセメント製造における最重要原材料であり、全体の約70~80%を占めるため、その質が製品の品質に直結します。
石灰石は主にカルシウム成分を提供し、粘土や鉄鉱石はアルミニウムやシリカなどを供給します。
フライアッシュや高炉スラグは、環境負荷の低減とセメントの特性向上のために使用されることが多く、廃棄物のリサイクルにも寄与しています。
クリンカーの製造プロセスと温度管理
クリンカーはセメント製造において最も重要な中間製品であり、焼成工程で生成されます。
石灰石や粘土を適切な比率で混合した原料を粉砕し、焼成炉に送ることでクリンカーが形成されます。
このプロセスでは、温度管理が極めて重要であり、適切な温度で焼成しなければ、製品の強度や硬化特性に悪影響を及ぼす可能性があります。
通常、焼成炉の内部ではおよそ1450℃の高温が維持されます。
この高温環境により、原料が化学反応を起こし、クリンカー中に含まれるシリケートやアルミネートの結晶が形成されます。
クリンカーの質は焼成時の温度や滞留時間によって大きく影響を受けるため、精密な制御が必要です。
焼成と粉砕工程の詳細
焼成工程の後、生成されたクリンカーは冷却され、適切な硬度になるまで処理されます。
冷却されたクリンカーは粉砕工程に送られ、ここで石膏やその他の添加剤と混合され、細かい粉末状のセメントへと仕上げられます。
粉砕工程では、セメントの粒度が最終製品の性能に直接影響するため、粒度を均一にすることが重要です。
近年では、ボールミルやローラーミルなどの高効率な粉砕装置が使用されており、製造工程の効率が向上しています。
これにより、エネルギー消費を抑えながら高品質のセメントを製造することが可能となりました。
環境への配慮(廃棄物利用とエネルギー効率)
セメント製造はエネルギー集約型の産業であり、温室効果ガス排出量の削減が大きな課題となっています。
そこで、廃棄物や副産物を積極的に活用し、環境負荷を軽減する取り組みが進められています。
例えば、フライアッシュや高炉スラグの使用は、セメント製造時に排出される二酸化炭素の削減に寄与します。
さらに、製造工程全体でエネルギー効率の向上が図られています。
高効率な焼成炉や熱回収システムの導入により、エネルギー消費を削減すると同時に、廃棄物の再利用率を高めることが可能になりました。
これらの取り組みにより、セメント産業は持続可能な社会の実現に貢献しています。
また、炭素回収技術(CCUS)の研究開発も進められており、セメント製造時に発生するCO₂を効率的に回収・再利用する方法が模索されています。
このような環境への配慮は、セメント産業全体の競争力を高めるだけでなく、地球環境の保全にもつながっています。
セメントの用途
セメントは、建築や土木工事の基盤を支える重要な材料であり、その用途は多岐にわたります。
主にモルタルやコンクリートとして使用され、建築物やインフラの耐久性と強度を確保する役割を果たしています。
また、用途に応じてポルトランドセメントや混合セメント、特殊セメントなどが適切に選ばれ、それぞれが独自の特性を発揮します。
以下では、セメントの代表的な用途と具体例について詳しく解説します。
建築や土木工事におけるモルタルとコンクリートの利用
モルタルとコンクリートは、セメントを用いた代表的な製品であり、それぞれ異なる特性と用途を持っています。
モルタルは、セメントペーストに細骨材(砂)を加えたものであり、主に壁の仕上げ材やレンガの接着に使用されます。
一方、コンクリートは、モルタルに粗骨材(砂利)を混ぜたものであり、柱や基礎など構造的な強度が求められる場面で使用されます。
特にコンクリートは、その強度と耐久性から、高層ビルや橋梁、ダム、道路といった大規模な構造物に欠かせない材料です。
また、モルタルとコンクリートは化学混和剤を添加することで、流動性や硬化速度などの特性を調整できるため、幅広いニーズに対応可能です。
ポルトランドセメントと混合セメントの具体的な適用例
ポルトランドセメントは、建築や土木工事における標準的な材料であり、幅広い用途に使用されます。
例えば、普通ポルトランドセメントは一般的な住宅建築や基礎工事に適しており、早強ポルトランドセメントは緊急工事や寒冷地での作業に利用されます。
中庸熱ポルトランドセメントは、水和熱が低いため、ダムや大型構造物に最適です。
一方、混合セメントは環境性能に優れており、特定の条件下での利用に適しています。
高炉セメントは、港湾やダムなどの耐久性が求められる場面で使用され、フライアッシュセメントは、流動性が高く、水密性が求められる構造物で利用されます。
混合セメントの利用は、CO₂排出量の削減や廃棄物の再利用といった環境的な利点も提供します。
特殊セメントの活用例(耐火性や緊急工事など)
特殊セメントは、特定の条件や用途に応じた性能を持つセメントであり、特殊な工事や環境下で活用されます。
アルミナセメントは、耐火性や耐酸性が求められる化学工場や高温環境での構造物に使用されます。
また、24時間以内に高い強度を発揮するため、緊急工事や寒冷地での施工にも適しています。
さらに、ジェットセメント(超速硬セメント)は、2~3時間で実用的な強度を発揮し、道路の緊急補修やトンネル工事のショットクリートに利用されます。
膨張セメントは、水密性が必要な構造物やひび割れの抑制を目的とした工事で広く使用されます。
特殊セメントは、通常のセメントでは対応できない状況において重要な役割を果たすため、用途に応じた適切な選定が求められます。
これにより、より安全で効率的な建築・土木工事の実現が可能となります。
セメントと安全性
セメントは建築や土木工事で欠かせない材料ですが、取り扱い方次第では健康リスクを伴うことがあります。
そのため、安全にセメントを使用するためには、正しい知識と適切な対策が不可欠です。
本章では、セメント使用時のリスクや安全対策、完全硬化後の特性について詳しく解説します。
セメント使用時のリスク(皮膚炎や塵肺症)
セメントは強いアルカリ性を示すため、取り扱い時には皮膚や粘膜に対して刺激性があります。
特に硬化前のセメントが皮膚に長時間付着すると、皮膚炎や化学的な火傷を引き起こす可能性があります。
また、セメントの粉塵は微細な粒子を含んでおり、これを吸引することで塵肺症を発症するリスクがあります。
さらに、セメントには微量の六価クロム(Cr⁶⁺)が含まれている場合があり、これがアレルギー性皮膚炎を引き起こす要因となることもあります。
こうしたリスクは、セメントの種類や使用環境により異なるため、事前に十分な注意が必要です。
安全に使用するための注意点(保護具の使用など)
セメント使用時には、健康リスクを最小限に抑えるための安全対策が重要です。
まず、皮膚や目、呼吸器を保護するために適切な保護具を着用しましょう。
具体的には以下のような対策が推奨されます:
- 耐アルカリ性の手袋を使用し、直接皮膚に触れないようにする。
- 防塵マスクを着用し、粉塵の吸引を防ぐ。
- 作業中はゴーグルを装着して目を保護する。
- 長袖の作業着やエプロンを着用して皮膚を覆う。
作業後は、セメントが付着した皮膚を流水で十分に洗い流し、保湿クリームで保護することも重要です。
また、作業場所の換気を徹底することで、粉塵の拡散を抑えることができます。
これらの対策を講じることで、セメント使用時の健康リスクを大幅に軽減できます。
完全硬化後のセメントの特性
セメントが完全に硬化すると、その特性は大きく変化し、使用時に見られるリスクがほとんどなくなります。
硬化後のセメント(モルタルやコンクリート)は、化学反応を経て中性に近づき、強いアルカリ性を失います。
このため、硬化後のセメントは皮膚や粘膜に刺激を与えることはほとんどありません。
さらに、硬化後のセメントは耐久性に優れており、建築物やインフラの強度を支える重要な役割を果たします。
また、時間の経過とともにさらに強度が増し、長期間にわたって安定した性能を発揮します。
完全硬化したセメントは安全で安定した材料であり、建築や土木工事において信頼できる基盤を提供します。
ただし、硬化後のセメントにも例外的なリスクが存在します。
例えば、コンクリートの劣化による粉塵の発生や補修作業時の再びの粉塵吸引には注意が必要です。
これらの状況では、作業環境に応じた安全対策を改めて講じることが求められます。
セメントの環境影響
セメント産業は、現代社会における建築とインフラの基盤を支える重要な役割を果たしていますが、その一方で製造過程における環境への影響も指摘されています。
特に、二酸化炭素(CO₂)の大量排出や、廃棄物の利用によるリサイクル効果、さらには新たな低炭素技術の開発が重要な課題となっています。
本章では、セメントの環境影響とその対策について詳しく解説します。
製造過程でのCO₂排出と削減の取り組み
セメントの製造過程では、主に焼成工程において大量のCO₂が排出されます。
特に、石灰石(CaCO₃)の熱分解による化学反応や、高温焼成のための燃料使用がCO₂排出の主要な要因です。
セメント産業は、世界の人為的CO₂排出量の約8%を占めるとされており、その環境負荷は大きな課題です。
この課題に対応するため、セメント業界では以下のような削減努力が進められています:
- 高炉スラグやフライアッシュなど、廃棄物由来の混合材を利用することで、ポルトランドセメントの使用量を削減。
- 省エネ型焼成技術の導入によるエネルギー効率の向上。
- CO₂排出を抑える新たな焼成プロセスの開発。
さらに、カーボンキャプチャー・ストレージ(CCS)技術が注目されています。
これは、製造過程で排出されるCO₂を回収し、安全に貯蔵または再利用する技術であり、現在多くの企業や研究機関で実証実験が進行中です。
廃棄物利用の重要性とリサイクル効果
セメント産業では、廃棄物や副産物の利用が環境負荷軽減の観点から重要視されています。
フライアッシュや高炉スラグといった廃棄物をセメント原料や混合材として活用することで、天然資源の消費を抑制し、廃棄物の処理コストを削減する効果があります。
特に、日本では廃棄物リサイクル率が高く、セメント製造過程でのリサイクルは環境保護のモデルケースとされています。
また、これにより最終処分場への廃棄物搬入量が削減されるため、社会全体にとっても大きなメリットがあります。
廃棄物利用の具体例としては、以下が挙げられます:
- 発電所から排出されるフライアッシュを混合材として利用。
- 下水処理場の汚泥をセメント原料として活用。
- 使用済みタイヤや廃プラスチックを焼成炉の燃料として使用。
これらの取り組みにより、セメント産業は持続可能な循環型社会の実現に貢献しています。
カーボンフットプリント低減の技術と展望
カーボンフットプリントを低減するため、セメント産業ではさまざまな革新的な技術が開発されています。
例えば、ジオポリマーセメントの導入は、その一例です。
ジオポリマーセメントは、従来のポルトランドセメントよりも低い温度で製造可能であり、CO₂排出を大幅に削減できる点で注目されています。
さらに、マグネシウムベースのセメントや、生物を利用したセメントの製造技術も進化しています。
これらの技術は、従来のセメント製造よりもエネルギー効率が高く、環境負荷を低減する可能性を秘めています。
将来的には、これらの低炭素型セメントが主流となり、持続可能な建築とインフラ整備に貢献することが期待されています。
このほか、既存のセメント製造設備に適応可能な技術として、二酸化炭素の吸収を促進する改良型混合セメントの研究も進んでいます。
これにより、既存の施設を活用しつつ、効率的な環境対策が可能となるでしょう。
セメント産業における環境対応は、業界全体の競争力を高めるだけでなく、地球規模の気候変動対策においても重要な役割を果たしています。
今後も、環境負荷を低減するための技術革新が求められるとともに、社会全体での持続可能な資源利用が進むことが期待されます。
セメント産業の現状と未来
セメント産業は、建築とインフラの基盤を支える重要な分野であり、世界中で需要が高まっています。
その一方で、環境への配慮や新技術の開発も求められています。
本章では、セメント産業の現状、主要な生産国と企業の動向、そして未来に向けた課題と技術革新について詳しく解説します。
世界的な生産量と主要な生産国
セメントの世界生産量は、近年著しく増加しており、2022年時点で年間約4億トンが製造されています。
特に中国、インド、アメリカが主要な生産国として全体の半数以上を占めています。
中国は世界のセメント生産の約60%を占める圧倒的なリーダーであり、その後にインド、アメリカが続きます。
また、東南アジアや中東、アフリカなどの新興国では、都市化やインフラ整備の進展に伴い、セメント需要が急速に高まっています。
これらの地域では、特に道路やダム、大型建築物の建設が進み、それに伴うセメント需要が経済成長を支えています。
一方で、先進国ではセメント需要がやや減少傾向にあり、新築工事よりもリノベーションや修繕工事での利用が主流となっています。
しかし、高性能な特殊セメントや環境に配慮した製品へのニーズが高まり、新たな市場が形成されています。
セメントメジャー企業の動向
セメント産業における「セメントメジャー」と呼ばれる世界的な大手企業は、業界の技術革新や市場動向に大きな影響を与えています。
代表的な企業として、スイスのホルシム、ドイツのハイデルベルク・マテリアルズ、メキシコのセメックスが挙げられます。
これらの企業は、世界各地に生産拠点を持ち、地域ごとの需要に応じたセメント供給を行っています。
特に、環境対応技術や低炭素型セメントの開発に積極的に投資している点が注目されています。
例えば、ホルシムは「グリーンセメント」の開発を進めており、従来のセメントよりもCO₂排出量を大幅に削減できる製品を提供しています。
また、これらの企業は、デジタル技術を活用した効率的な生産管理や、廃棄物を利用した原材料の活用にも注力しています。
これにより、環境負荷の軽減とコスト削減を両立させることを目指しています。
環境に優しいセメント技術の発展と課題
セメント産業は、CO₂排出量の削減が課題となっており、環境に優しい技術の開発が求められています。
近年、以下のような革新的な技術が注目されています:
- ジオポリマーセメント:低温で製造でき、CO₂排出量を大幅に削減可能。
- カーボンキャプチャー・ストレージ(CCS):製造過程で発生するCO₂を回収し、貯蔵または再利用する技術。
- バイオセメント:微生物を利用してカルシウムカーボネートを生成し、硬化させる技術。
これらの技術は、既存のセメント製造プロセスに比べて環境負荷を軽減する可能性がありますが、いくつかの課題も抱えています。
例えば、新技術のコストが従来技術に比べて高い点や、大規模生産への適用に時間がかかる点が挙げられます。
セメント産業の未来は、環境技術の革新と経済的な持続可能性の両立にかかっていると言えます。
業界全体がこれらの課題を克服するために協力し、持続可能な発展を実現することが求められています。
これからのセメント産業は、単なる建築材料の提供者ではなく、持続可能な社会を支えるリーダーとしての役割を果たす必要があります。
環境技術の進展とともに、産業全体の構造転換が進むことで、よりクリーンで効率的なセメント製造が実現するでしょう。