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トランス脂肪酸とは何か?定義や多く含む食品などわかりやすく解説!

トランス脂肪酸

トランス脂肪酸とは何か

トランス脂肪酸は、現代の食生活において深刻な健康リスクをもたらす成分として注目されています。 かつては食品の保存性を高めたり、食感を向上させる目的で広く利用されていましたが、近年の研究により、動脈硬化や心筋梗塞といった心血管疾患との強い関連が明らかになってきました。 トランス脂肪酸は自然界にも存在する一方、人工的に生成されたものが主に問題視されています。 本章では、まずトランス脂肪酸の基本的な定義と、その構造上の特異性について詳しく解説します。

定義:不飽和脂肪酸のうち、トランス型の二重結合を持つ脂肪酸

脂肪酸は炭素と水素からなる有機化合物であり、その構造によって飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別されます。 トランス脂肪酸はこのうち、不飽和脂肪酸に分類されるものの一種であり、特に二重結合部位の水素原子の位置関係が「トランス型(反対側)」になっているという特徴を持っています。 通常の不飽和脂肪酸では、二重結合を挟んで水素原子が同じ側に位置する「シス型」が主流ですが、トランス脂肪酸ではこの配置が逆になります。 この独特の水素配置により、トランス脂肪酸は直線的な分子構造を持ち、シス型脂肪酸に比べて分子間の密着度が高くなるため、常温でも固体状になりやすい性質を有しています。 この特性を利用して、液体油からマーガリンやショートニングなどの半固体油脂を製造する技術が開発され、多くの加工食品に利用されてきました。 しかし、人工的に生成されたトランス脂肪酸の過剰摂取は、血中脂質異常や炎症反応の促進など、人体に深刻な悪影響をもたらすことが明らかになっています。 このため、トランス脂肪酸は「避けるべき脂肪」として世界中で認識されるようになりました。

シス型との構造の違いと性質(直線構造、固体化しやすい)

不飽和脂肪酸におけるシス型とトランス型の違いは、分子構造のみならず、物理的性質や生理的影響にも大きな差異を生み出します。 シス型脂肪酸は、二重結合部位に隣接する水素原子が同じ側に位置するため、分子に曲がりが生じ、結果として分子同士が密にパッキングしにくくなります。 このため、シス型脂肪酸は常温で液体(例:植物油)となることが多く、柔軟性に富んだ性質を持っています。 一方、トランス脂肪酸では水素原子が反対側に位置しているため、分子はほぼ直線状に伸び、構造が硬直化します。 この直線的な構造によって、トランス脂肪酸は分子同士が密に結びつきやすくなり、常温でも固体または半固体の形態を取りやすくなるのです。 この性質は、加工食品に求められる「サクサク感」や「コク」、「長期保存性」といったメリットを実現するうえで極めて重要でした。 しかし、この加工上の利点とは裏腹に、体内ではトランス脂肪酸が悪玉コレステロール(LDL)の増加、善玉コレステロール(HDL)の減少、さらには血管壁の炎症促進といった重大な健康リスクをもたらすことが、数多くの疫学研究により明らかにされています。 こうした科学的知見の蓄積により、近年では食品業界全体がトランス脂肪酸の使用削減へと大きく舵を切る動きが加速しているのが現状です。

天然と人工のトランス脂肪酸

トランス脂肪酸は、すべてが人工的に作られたわけではありません。 自然界にも微量ながら存在する種類があり、主に反芻動物(牛や羊など)の消化過程で生成されることが知られています。 一方、現代社会で問題視されているのは、食品工業において大量に作られた人工的なトランス脂肪酸です。 この章では、天然由来のトランス脂肪酸と、人工的に生成されたトランス脂肪酸の違い、それぞれの特徴と健康影響について詳しく見ていきます。

天然由来のトランス脂肪酸

天然のトランス脂肪酸は、牛や羊といった反芻動物の第一胃(ルーメン)内で発酵を行う微生物の働きによって生成されます。 この過程で、不飽和脂肪酸の一部がトランス型に変換され、乳脂肪や肉脂肪に微量ながら蓄積されます。 そのため、牛乳、バター、ヨーグルト、牛肉、羊肉といった動物性食品には、自然にトランス脂肪酸が含まれています。 これら天然型トランス脂肪酸の摂取量は、一般的な食生活ではごく少量であり、通常は深刻な健康リスクを引き起こすレベルには達しないと考えられています。 また、天然型に多く含まれる「共役リノール酸(CLA)」には、体脂肪減少や抗炎症効果など、健康に有益な可能性が示唆されている成分もあります。 しかしながら、天然型であっても大量摂取は望ましくないとされ、あくまで適量を心がけることが重要です。

人工的に生成されたトランス脂肪酸

人工的なトランス脂肪酸は、主に食品加工の過程で作られます。 特に、液体の植物油に水素を部分的に添加(部分水素添加)する技術により、トランス型の不飽和脂肪酸が形成されます。 この方法は、植物油を常温でも半固体にし、加工食品の製造に適した特性(保存性向上、食感改良など)を持たせるために広く用いられてきました。 マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、さらにはそれらを使用したパン、洋菓子、揚げ物類など、多くの加工食品に人工トランス脂肪酸は含まれています。 人工的に生成されたトランス脂肪酸は、血中コレステロールを悪化させ、心血管疾患のリスクを大幅に高めることが確実視されており、現在では世界的に排除の動きが強まっています。 このため、各国では食品中の人工トランス脂肪酸を制限または禁止する法整備が進み、食品業界でも代替技術の開発と使用低減が急速に進められています。 現代人が注意すべきは、主にこの「工業由来」のトランス脂肪酸であり、日常の食生活においてラベル表示や食品選びに注意を払うことが推奨されています。

トランス脂肪酸

トランス脂肪酸を多く含む食品

トランス脂肪酸は、現代の加工食品に幅広く利用されてきた歴史を持ちます。 特に、保存性の向上、食感の改良、コスト削減などの目的から、様々な製品に部分水素添加油脂が使用されてきました。 この章では、どのような食品にトランス脂肪酸が多く含まれているのか、そして、どのような点に注意すべきかについて詳しく解説します。

マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド

人工的に生成されたトランス脂肪酸の主要な供給源は、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッドといった加工油脂製品です。 これらは、植物油に水素を部分的に添加して半固体状に加工したものであり、冷蔵庫で保存しても固まる特性を持っています。 特に、かつては家庭用マーガリンや業務用ショートニングに高濃度のトランス脂肪酸が含まれていたため、日常的な摂取源となっていました。 近年では、製造技術の進歩によりトランス脂肪酸を大幅に低減した製品も増えていますが、依然として注意が必要な食品群です。 成分表示を確認し、「部分水素添加油脂」や「トランス脂肪酸」の記載がある場合には、選択に慎重を期すことが推奨されます。

パン、洋菓子、ビスケット、スナック類

トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングを原材料に使用する製品にも多く含まれていました。 具体的には、食パンやクロワッサン、ケーキ、パイ、クッキー、ビスケット、ドーナツ、さらにはポテトチップスやスナック菓子類に至るまで、非常に広範囲な食品に利用されてきました。 これらの製品では、油脂によるサクサク感やリッチな味わいを出すために、トランス脂肪酸を含む油脂が活用されていた歴史があります。 特に洋菓子や焼き菓子は、脂肪分が多く含まれるため、無意識のうちにトランス脂肪酸を過剰摂取してしまうリスクが高いと指摘されています。 現在では、多くのメーカーがトランス脂肪酸削減に取り組んでいるものの、すべての商品が完全にゼロではないため、成分表のチェックが重要です。

ファストフードや揚げ物食品

ファストフードチェーンや一部の外食産業では、かつてトランス脂肪酸を多く含む油脂を揚げ油として使用していました。 フライドポテト、フライドチキン、ハンバーガー、ピザなどのメニューには、部分水素添加油脂を使用したケースが少なくありません。 また、スーパーやコンビニで販売されているお惣菜の揚げ物(コロッケ、唐揚げ、天ぷらなど)にも、トランス脂肪酸を含む油脂が用いられていた例があります。 特に外食や中食を頻繁に利用する場合、知らず知らずのうちにトランス脂肪酸の摂取量が増加する可能性があるため、注意が必要です。 近年では、多くのファストフードチェーンがトランス脂肪酸フリーの油への切り替えを進めていますが、すべての飲食店で完全対応がなされているわけではありません。 健康意識を高め、食材選びや食生活全体のバランスに配慮することが、トランス脂肪酸摂取を抑える上で重要です。

健康への影響

トランス脂肪酸は、単に食品の加工上の利便性を高めるだけでなく、人体に深刻な健康リスクをもたらすことが広く知られるようになっています。 特に心血管疾患との関連は、世界中の公衆衛生機関が強く警鐘を鳴らしているポイントです。 この章では、トランス脂肪酸がどのように健康に悪影響を与えるのか、主要なリスクについて詳しく解説します。

心血管疾患リスクの増加

トランス脂肪酸の摂取による最大の健康問題は、心血管疾患のリスク増加です。 摂取量が多くなると、血中の悪玉コレステロール(LDL)が上昇すると同時に、善玉コレステロール(HDL)が低下することが知られています。 この血中脂質バランスの悪化は、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や狭心症といった重大な病気の発症リスクを高めます。 特に、トランス脂肪酸の摂取量が総エネルギーの2%を超えると、冠動脈疾患による死亡リスクが大幅に増加することが多くの疫学研究で報告されています。 こうしたリスクの高さから、WHOをはじめとする国際機関は、トランス脂肪酸の摂取をできるだけゼロに近づけるよう勧告しています。

糖尿病や肥満との関係

トランス脂肪酸の悪影響は心臓病だけにとどまりません。 近年の研究では、トランス脂肪酸の摂取がインスリン抵抗性を高め、2型糖尿病の発症リスクを増加させる可能性も指摘されています。 また、体脂肪の蓄積を促進し、肥満の進行を助長する働きもあるとされています。 特に、内臓脂肪型肥満(いわゆるメタボリックシンドローム)との関連が強いとされ、生活習慣病全体のリスクを押し上げる要因となりうるのです。 このため、糖尿病や肥満に悩む人にとっては、トランス脂肪酸を極力排除した食生活が重要な対策となります。

慢性炎症の促進とその他の影響

トランス脂肪酸の摂取は、血管内皮細胞に炎症を引き起こすことも知られています。 これにより、慢性炎症が体内で持続しやすくなり、動脈硬化やがん、認知症など、さまざまな疾患リスクを高める可能性があると考えられています。 また、一部の研究では、妊娠中のトランス脂肪酸摂取が胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。 慢性的な炎症状態は、心血管疾患や糖尿病だけでなく、アルツハイマー病などの神経変性疾患のリスクとも関連が深いとされており、無視できない問題です。 こうした理由から、健康寿命を延ばすためにも、日常的に摂取する脂肪の質には細心の注意を払う必要があるといえるでしょう。

トランス脂肪酸

摂取基準と現状

トランス脂肪酸の健康リスクが明らかになるにつれ、国際機関や各国政府はその摂取量を制限するための指針を定めてきました。 しかし、各国の食生活や食品産業の実態に応じて、摂取状況や対応策には違いも見られます。 この章では、世界的な摂取基準の概要と、日本における実際の摂取状況について詳しく解説します。

世界における摂取基準

世界保健機関(WHO)は、トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるべきと強く勧告しています。 この基準は2003年に示され、例えば1日2000kcalを摂取する成人であれば、トランス脂肪酸の許容摂取量はおおよそ2g以下とされます。 さらにWHOは、工業的に生成されたトランス脂肪酸を食品から完全に排除することを目標に掲げ、各国に規制強化を呼びかけています。 アメリカでは、食品への部分水素添加油脂(PHOs)の使用を禁止し、EU諸国も脂肪中のトランス脂肪酸含有量を2%以下に制限する法律を施行しました。 これらの動きは、トランス脂肪酸の摂取削減による心血管疾患予防に大きな効果が期待できると考えられています。

日本における基準と推奨

日本でも、2020年版「日本人の食事摂取基準」において、トランス脂肪酸の摂取は可能な限り少なく、総エネルギー摂取量の1%未満を目安とすることが推奨されています。 厚生労働省や消費者庁も、トランス脂肪酸に関する情報提供を積極的に行い、国民への注意喚起を進めています。 ただし、現時点ではトランス脂肪酸に関する強制的な表示義務や使用制限は設けられておらず、各食品メーカーの自主的な取り組みに委ねられています。 そのため、消費者自身が食品ラベルを確認し、選択的に低トランス脂肪酸の商品を選ぶ姿勢が求められています。

日本人の摂取状況と今後の課題

国の調査によると、日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は総エネルギー摂取量の約0.3~0.5%と推定されており、WHOの基準値(1%未満)を下回っています。 これは、伝統的な和食中心の食文化や、加工食品における部分水素添加油脂の使用比率が欧米に比べて低いことが背景にあります。 しかし、近年の食の欧米化や外食・中食の普及に伴い、今後摂取量が増加する可能性も懸念されています。 また、個人によってはスナック菓子やファストフードの頻繁な摂取により、局所的に高摂取となるケースも見受けられるため、引き続き注意が必要です。 今後は、国全体での摂取実態の継続的なモニタリングと、食品業界によるさらなるトランス脂肪酸削減努力が重要となります。

世界と日本の規制

トランス脂肪酸による健康被害のリスクが世界的に認識されるようになると、多くの国々で食品中のトランス脂肪酸を規制する動きが加速しました。 特に欧米諸国では、法規制によって工業的トランス脂肪酸の排除が進められています。 この章では、世界各国の規制状況と日本における対応について、詳しく解説します。

世界各国における規制の動向

デンマークは2003年、世界に先駆けて食品中の脂肪に含まれるトランス脂肪酸を2%未満に制限する法律を施行しました。 その後、カナダ、アメリカ、EU諸国、シンガポールなど多くの国々が同様の規制を導入し、トランス脂肪酸削減を国家的課題として位置付けました。 アメリカでは、2018年以降、部分水素添加油脂(PHOs)の使用が原則禁止され、トランス脂肪酸を事実上市場から排除しています。 EUでも2019年に新たな規則が施行され、加工食品中の脂肪100gあたりトランス脂肪酸含有量を2g以下に制限しました。 これらの政策によって、対象国では心血管疾患の発症率低下や、健康医療コストの削減効果が期待されています。

日本における規制と現状

日本では、トランス脂肪酸に関する明確な使用禁止や含有量規制は存在していません。 現在は、食品メーカーによる自主的な努力と、政府機関による注意喚起や情報提供を中心とした対応が行われています。 消費者庁は、2011年に「トランス脂肪酸に関する情報開示ガイドライン」を策定し、食品事業者に対してトランス脂肪酸の情報提供を推奨しています。 一方で、日本人の平均摂取量が国際基準を下回っていることを理由に、現時点では厳格な法規制を導入する段階には至っていません。 しかし、食生活の多様化や外食・中食の拡大に伴い、今後の動向を注視する必要があると専門家から指摘されています。

規制に向けた世界的な潮流と課題

WHOは、工業的に生成されたトランス脂肪酸を2025年までに世界中の食品から排除することを目標とした「REPLACE」行動計画を推進しています。 このプログラムでは、各国政府に対し、規制強化、食品中のトランス脂肪酸削減、消費者への教育啓発など多角的なアプローチを求めています。 規制が導入された国では健康指標の改善が報告される一方で、規制が緩やかな国や低中所得国では依然として高いリスクが残されている点が課題となっています。 今後は、グローバルレベルでの情報共有と、すべての国で一貫した対応を進めることが、トランス脂肪酸による健康被害を根本的に防ぐために不可欠となります。

トランス脂肪酸

トランス脂肪酸を減らすための取り組みと今後

トランス脂肪酸による健康リスクを低減するために、世界中でさまざまな取り組みが進められています。 食品業界における製品改良や、国際機関による啓発活動、さらには消費者自身の意識改革も重要な要素となっています。 この章では、トランス脂肪酸削減に向けた現在の具体的な取り組みと、将来的な課題について詳しく解説します。

食品業界の取り組みと代替技術の開発

食品メーカーは、トランス脂肪酸の使用削減に向けた様々な技術革新を進めています。 代表的な方法としては、完全水素添加油脂(トランス脂肪酸を含まない)、高オレイン酸植物油の使用、脂肪酸組成のエステル交換(インターステリフィケーション)技術などが挙げられます。 これらの代替技術により、食感や風味を損なうことなく、トランス脂肪酸フリーの製品開発が可能になりつつあります。 特に、ファストフードチェーンや大手食品メーカーでは、トランス脂肪酸ゼロを目指した油脂への切り替えが加速しており、一定の成果を上げています。 一方で、すべての製品が完全に対応できているわけではなく、引き続き技術革新とコストバランスの両立が課題となっています。

国際機関と各国政府の役割

WHOを中心とした国際機関は、トランス脂肪酸の排除に向けた具体的な行動計画「REPLACE」を推進しています。 このプログラムは、各国に対し規制の制定、食品業界への働きかけ、消費者教育、トランス脂肪酸の摂取モニタリングなど、多面的なアプローチを求めています。 すでに多くの国がこれに呼応してトランス脂肪酸規制を強化しており、心血管疾患死亡率の低下といった健康効果が現れ始めています。 日本においても、法規制こそ存在しないものの、情報提供や食品業界の自主努力を通じて、摂取量の低下が進んでいます。 今後は、より一層のグローバルな連携と、科学的根拠に基づいた政策推進が重要となるでしょう。

消費者意識と今後の展望

トランス脂肪酸を生活の中から減らすためには、消費者一人ひとりの意識改革も不可欠です。 食品ラベルを確認する習慣を持ち、「部分水素添加油脂」の表示や「トランス脂肪酸フリー」などの情報に注意を払うことが求められます。 また、自炊を心がけ、加工食品やファストフードの利用を適度に抑えることも、トランス脂肪酸摂取の低減に効果的です。 今後は、食品業界・行政・消費者が三位一体となり、トランス脂肪酸を含まない食環境づくりを推進していくことが求められます。 その結果として、生活習慣病の予防や健康寿命の延伸が実現できる未来が期待されています。

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