はじめに
安山岩(あんざんがん、英: andesite)は、火成岩の一種であり、主に火山活動を通じて地表や地殻浅部で形成される岩石です。化学組成の観点から見ると、安山岩は玄武岩と流紋岩の中間に位置し、その中間的な性質を持つことから「中性火山岩」とも呼ばれます。主に大陸地殻の主成分を構成する重要な岩石として知られ、火山帯や島弧地帯において広く分布しています。
安山岩の名は、南米のアンデス山脈に由来しています。19世紀、地質学者クリスティアン・レオポルト・フォン・ブッフが、アンデス山脈で見つかった岩石にこの名を付けました。この岩石は、アンデス山脈をはじめとするプレート沈み込み帯に関連した火山活動によって形成されることが多く、地球上の火山地形や地殻形成の理解に欠かせない存在となっています。
地球の地殻は主に3つの主要な火成岩、すなわち玄武岩、安山岩、および流紋岩から構成されています。その中でも安山岩は、シリカ(SiO2)含有量が57〜63wt%と中程度であり、火成岩の分類において「中間岩」に分類されます。日本では、火山活動の多い地域でよく見られ、代表的な例として富士山の溶岩や箱根火山、さらには西之島などが挙げられます。
また、安山岩は地質学的な視点だけでなく、実用的な用途も多岐にわたります。日本では古くから石垣や石材として利用され、鉄平石や本小松石などの優れた石材が安山岩から産出されます。歴史的建造物の一部にも安山岩が使用されており、自然が生み出す美しさとその堅牢さから文化的・経済的な価値も高い岩石です。
本記事では、安山岩の科学的な定義、成分組成、特徴、形成過程について詳しく掘り下げ、さらにその地質学的な意義や人類の歴史における利用についても解説します。安山岩がどのようにして形成され、なぜ私たちの生活や環境において重要なのか、その全体像を理解する一助となれば幸いです。
安山岩の定義
安山岩(あんざんがん、英: andesite)は、火山活動によって形成される中間的な組成の火成岩です。その分類は、シリカ(SiO2)含有量を基準に決められており、国際的な基準と日本独自の基準でわずかな違いが見られます。さらに、安山岩は地球の火山帯や沈み込み帯に広く分布し、大陸地殻の主成分として重要な役割を果たしています。
分類基準
国際地質科学連合(IUGS)の基準によれば、安山岩はシリカ(SiO2)量が57〜63wt%の火山岩として定義されます。これは、玄武岩よりもシリカ量が多く、流紋岩よりは少ない中間的な組成の岩石です。
一方、日本でよく用いられる都城・久城(1975)の分類体系では、シリカ量53〜62wt%の火山岩を安山岩としています。この分類は、縦軸にアルカリ量(Na2O + K2O)、横軸にSiO2量をとったものであり、国際的基準とほぼ一致しています。
このように、安山岩はそのシリカ量を基準に分類されることが特徴であり、火山岩の中でも中間的な位置づけを占めます。
名前の由来
安山岩の名前は、南米のアンデス山脈に由来しています。19世紀、地質学者クリスティアン・レオポルト・フォン・ブッフがアンデス山中の火山岩にこの名称を付けました。アンデス山脈は、プレート沈み込み帯における火山活動が活発な地域であり、安山岩が豊富に産出することで知られています。
日本では、当初「富士岩」という名称が用いられていました。これは、富士山の溶岩が主に安山岩で構成されていることに由来します。しかし、地質調査所が「アンデス山の石」という意味で「安山岩」と訳したことで、この名称が次第に定着しました。
安山岩という名称は地質学的背景を反映しつつ、日本においても馴染みの深い名称として広まりました。
深成岩との関係
安山岩は火山岩として地表や浅い地殻部分で急速に冷却・固結しますが、これに対応する深成岩は閃緑岩です。深成岩は地下深くでゆっくりと冷却されるため、安山岩と比べて結晶粒が大きくなる特徴を持ちます。
火山活動によって地表に噴出したマグマが急速に冷却されて形成されるのが安山岩であり、地下深くでゆっくりと冷え固まると閃緑岩が形成されるのです。つまり、両者は同じマグマ成分から生まれた岩石であり、冷却速度の違いによって異なる組織が発達します。
安山岩と閃緑岩は対を成す岩石であり、その形成環境の違いが地質学的な特徴を生み出しています。
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安山岩の成分と種類
安山岩は、地球の火山活動によって形成される中性の火成岩であり、その成分や種類は非常に多様です。安山岩の化学組成や鉱物構成は、玄武岩と流紋岩の中間に位置することから、中間的な性質を持っています。さらに、含まれる鉱物の種類や割合によって分類され、特定の特徴を持つ特殊な安山岩も存在します。
主成分
安山岩の主要な構成成分は、斜長石と有色鉱物です。これらは岩石の特徴を決定する重要な要素であり、以下のように分類されます。
- 斜長石:主にナトリウムを含有する斜長石(例:アンデシン)が主体です。斜長石は安山岩の色や硬度に大きな影響を与えます。
- 有色鉱物:角閃石、輝石、磁鉄鉱が主要な有色鉱物として含まれます。まれに、かんらん石や黒雲母が含まれることもあります。
安山岩に含まれる鉱物の種類と割合は、その成因や生成環境を反映しており、火山活動の過程を読み解く鍵となります。
種類
安山岩は、含まれる主要な鉱物によって細かく分類され、それぞれの特徴に基づいて異なる名前が付けられています。
- 角閃石安山岩:主成分が角閃石である安山岩です。角閃石は柱状結晶を形成し、黒色や暗褐色の鉱物として岩石中に存在します。
- 輝石安山岩:主成分が輝石(例:普通輝石や頑火輝石)の安山岩です。輝石が含まれることで岩石は緻密な構造となり、黒色が強くなります。
- かんらん石安山岩:かんらん石を含む安山岩で、比較的マグネシウムや鉄分に富んだ成分を持ちます。かんらん石は緑色の結晶として確認できます。
これらの種類は、安山岩の結晶組織や鉱物構成によって異なり、地質学的な分類や研究において重要な意味を持ちます。
特殊な安山岩
安山岩には、特徴的な成分や生成環境を持つ「特殊な安山岩」が存在します。これらは特定の地域や条件下でのみ形成され、独自の性質を持つ岩石です。
- 讃岐岩(sanukite):
讃岐岩は黒色で緻密な構造を持ち、斑晶がほとんど見られないのが特徴です。主に古銅輝石を含み、瀬戸内海沿岸の讃岐地方(香川県)に分布しています。美しい音色を奏でるため、「カンカン石」とも呼ばれ、楽器材料として利用された歴史もあります。 - 無人岩(boninite):
無人岩はガラス質の岩石であり、斜長石をほとんど含まないのが特徴です。小笠原諸島(ボニン諸島)に由来する名前であり、極めて特殊な環境下で形成される安山岩の一種です。
これらの特殊な安山岩は、特定の地域や条件でのみ見られるため、地質学的な価値が高いとされています。
安山岩の特徴と性質
安山岩は、火山活動によって形成される中間的な火成岩であり、その特徴や性質には地質学的に重要な要素が多く含まれます。主に色や外観、組織構造、そして火山活動との関係を通じてその特性を理解することができます。また、他の惑星での分布状況を見ると、地球における安山岩の特異性も際立ちます。
色と外観
安山岩の色は灰色から暗灰色が一般的であり、含まれる鉱物によって若干の違いが見られます。例えば、有色鉱物が多い場合にはより暗い色合いを呈し、斜長石が多い場合には比較的明るい灰色になります。
見た目において玄武岩と似ていることがありますが、その違いはシリカ(SiO2)含有量によって区別されます。玄武岩のSiO2量が52wt%以下であるのに対し、安山岩は57〜63wt%の中間的なシリカ含有量を持つため、化学組成に明確な差が存在します。
組織面では、安山岩は斑晶(大きな結晶)と石基(細かい結晶)から成る「斑状組織」が特徴的です。斑晶は、地下でゆっくりと冷却された際に形成される結晶であり、地表への噴出後に急冷された細かな石基が周囲を覆います。
この斑状組織は安山岩の外観的特徴であり、火山活動の過程を反映する重要な証拠となります。
火山活動との関係
安山岩は、主にプレートの沈み込み帯における火山活動で生成されます。プレートが沈み込む際、海洋プレートの水分がマントルに供給されることで部分的な融解が発生し、安山岩質マグマが生成されると考えられています。
このような火山活動では、安山岩が成層火山(複成火山)を形成することが多く、火山体は層状に堆積した溶岩流と火山灰から成ります。成層火山の特徴は、急峻な山体と爆発的な噴火を伴うことが多い点にあります。
日本において安山岩が代表的に見られる火山には、次の例が挙げられます:
- 富士山:日本を象徴する火山で、安山岩の溶岩流が多くを占めています。
- 西之島:近年の火山活動で新しい陸地が形成された火山島であり、噴出した溶岩は主に安山岩です。
安山岩は地球上の火山活動において重要な役割を果たし、沈み込み帯で形成される特徴的な岩石です。
他惑星での分布
安山岩は、地球上では一般的に見られる岩石ですが、他の惑星では非常に珍しい存在とされています。火星や金星の地殻は主に玄武岩で構成されており、安山岩のような中間的な組成の火成岩はほとんど確認されていません。
火星においては、安山岩が存在する可能性が示唆されていますが、その分布は限られており、地球のようなプレートテクトニクスが存在しないことから、生成メカニズムが異なると考えられています。一方、金星では、火山活動によって形成された溶岩ドームが見られるものの、安山岩に相当する成分があるかどうかは未だ解明されていません。
このことから、安山岩は地球特有の火山活動に関連する岩石であり、地球のプレートテクトニクスの存在を示す重要な証拠とされています。
安山岩の生成過程
安山岩の形成は、地球の火山活動と深く結びついており、特にプレートの沈み込み帯で顕著に見られます。その成因は複雑であり、複数のメカニズムが関与することで安山岩質マグマが生成されます。主に部分融解、分別結晶作用、マグマ混合の3つのプロセスが考えられ、さらに特殊な条件下ではアダカイトのような特異な安山岩質マグマも生成されることがあります。
成因のメカニズム
安山岩質マグマの形成には、以下の主要なメカニズムが関わっています。
- 部分融解:
プレートの沈み込み帯では、海洋プレートが高温・高圧環境下に置かれることで脱水反応が引き起こされます。この過程で放出される水分は、マントルの固相線(融解温度)を下げ、部分融解を促進します。結果として、マントル物質が融解し、玄武岩質マグマが生成されます。このマグマが地殻に上昇し、冷却・結晶分化する過程で安山岩質の組成に変化します。
部分融解は沈み込み帯特有のプロセスであり、安山岩がプレート境界で多く見られる理由の一つです。
- 分別結晶作用:
玄武岩質マグマが上昇する過程で、温度低下に伴い鉱物が結晶化します。最初に高温で結晶化する鉱物(例:かんらん石や輝石)がマグマから分離・除去されることで、残留マグマの成分は徐々に変化し、シリカ(SiO2)が増加します。この過程を分別結晶作用と呼び、マグマは次第に安山岩質へと進化します。
分別結晶作用は、マグマの進化過程において重要な役割を果たし、安山岩を形成する主要なプロセスの一つです。
- マグマ混合:
プレート沈み込み帯や大陸地殻の浅い部分では、異なる組成のマグマが混ざり合うことがあります。例えば、玄武岩質マグマと流紋岩質マグマが混合することで、化学的に中間的な安山岩質マグマが生成されます。この現象は、マグマ溜まり内で頻繁に起こり、混合の証拠として不均質な斑晶が確認されることがあります。
マグマ混合は、複数のマグマが再融合することで中間組成の岩石を形成する重要なプロセスです。
アダカイトの提唱
安山岩の成因に関して、DefantとDrummondは新たな理論を提唱しました。彼らは、熱いスラブ(沈み込む海洋プレート)が直接溶融し、安山岩質マグマが生成される場合があると述べ、このタイプの岩石をアダカイトと名付けました。
通常、沈み込むスラブは比較的低温であるため、直接溶融することは稀ですが、40Ma(約4000万年前)以降の地質時代において、若くて温度の高いスラブが沈み込む場合、柘榴石を残留相とするエクロジャイトが溶融し、安山岩質マグマが生成されると考えられています。このアダカイトは、通常の安山岩と比較して高いSr/Y比を示すことが特徴です。
アダカイトは、特殊な沈み込み環境で形成される安山岩質マグマの一種であり、その発見は安山岩の成因解明に大きな影響を与えました。
以上のように、安山岩は複数のプロセスを経て形成される岩石であり、その成因は地球内部のダイナミックな活動を反映しています。沈み込み帯や火山活動における安山岩の形成メカニズムを理解することは、地球のプレートテクトニクスや地殻進化の解明にも繋がる重要な課題です。
安山岩の用途と加工法
安山岩は、その強度と耐久性に優れた特性から、古くから建材や石材として利用されてきました。特に日本をはじめとする火山国では、豊富に産出される安山岩が生活や文化、建築に幅広く活用されてきました。また、歴史的建造物にも見られることから、文化的・歴史的価値も高い岩石といえます。
建材としての利用
安山岩はその硬質で緻密な組織と、美しい外観から建築材料として広く使用されています。具体的な用途としては、以下のものが挙げられます。
- 石垣や石壁:
安山岩は割れにくく耐久性が高いため、古くから石垣や石壁の材料として使用されてきました。城郭や庭園、河川護岸などに用いられ、長期間にわたってその形を保ち続けます。 - 砕石(砂利):
砕石として加工された安山岩は、道路工事や建設基盤の敷石や砂利として利用されます。砕いた際の粒子の均一性と硬さが、安山岩の実用性を高めています。 - 鉄平石:
安山岩の一種である鉄平石は、日本の代表的な石材として知られ、主に屋根瓦や床材として使用されます。その平滑で美しい見た目と耐久性から、日本庭園や伝統建築に欠かせない素材です。 - 本小松石:
神奈川県真鶴町で産出される本小松石は、日本を代表する銘石のひとつです。その美しい色合いと緻密な組織から、彫刻や墓石、記念碑など高級石材として利用されています。
安山岩は加工のしやすさと強度のバランスに優れており、建材として幅広い分野で利用されています。
歴史的建造物
安山岩は古代から現代にかけて、世界各地の歴史的建造物にも使用されてきました。その理由は、耐久性が高く長期間風化しにくいこと、また美観を保つことができるためです。以下は、安山岩が使用された代表的な歴史的建造物です。
- ボロブドゥール寺院(インドネシア):
ボロブドゥール寺院は、インドネシア・ジャワ島にある世界最大級の仏教遺跡です。この建造物は安山岩で構築されており、その石材は現地の火山地帯から切り出されました。安山岩の硬質で彫刻に適した特性が、仏像やレリーフの精緻な装飾を可能にしています。 - サクサイワマン(ペルー):
ペルーのクスコ近郊に位置するサクサイワマンは、インカ帝国の要塞遺跡です。ここでは安山岩が使用され、大規模な石組みが特徴的です。驚くべきことに、これらの石材は隙間なく精密に組み合わされており、現代でもその高度な技術に注目が集まっています。
これらの建造物は、安山岩の耐久性と美観を活かした素晴らしい例であり、地質学的にも文化的にも貴重な遺産です。
このように、安山岩は自然環境の中で形成される岩石でありながら、人類の歴史や文化に深く関わってきました。その強度と加工の容易さから、現代の建築や工事においても欠かせない素材となっています。今後もその価値は、多様な分野で見直され続けるでしょう。
まとめ
安山岩は、火成岩の中でも中間的な組成を持つ岩石であり、主にプレートの沈み込み帯における火山活動によって形成されます。その名の通り、南米のアンデス山脈にちなんで命名されたこの岩石は、シリカ含有量が57〜63wt%であり、玄武岩と流紋岩の中間に位置する特徴的な岩石です。
安山岩は斜長石や角閃石、輝石などの鉱物から成り立ち、斑晶と石基からなる斑状組織を示します。灰色から暗灰色の外観を持ち、地表に噴出したマグマが急冷されることで形成されます。これにより、成層火山の形成や火山島の成長に寄与しており、日本では富士山や西之島が代表的な例です。
また、その成因には複雑なプロセスが関わっており、部分融解や分別結晶作用、さらにはマグマ混合が主な生成メカニズムとして挙げられます。これに加え、特殊な条件下では沈み込むスラブが直接溶融することで形成されるアダカイトのような安山岩質マグマも存在します。これらの過程は、地球のプレートテクトニクスやマグマ活動の理解に欠かせない要素です。
一方で、安山岩は建築材料としての実用性も高く、耐久性と強度に優れることから古代から現代に至るまで広く利用されてきました。石垣や砕石としての用途に加え、鉄平石や本小松石といった日本特有の石材も安山岩に含まれます。さらに、ボロブドゥール寺院(インドネシア)やサクサイワマン(ペルー)などの歴史的建造物にも使用され、文化的価値の高い岩石としての側面もあります。
興味深いことに、安山岩は地球上では豊富に見られるものの、他の惑星では極めて稀な存在です。火星や金星の地殻は主に玄武岩から成り立っており、安山岩は地球のプレートテクトニクスが生み出す地質学的特異性の象徴とされています。このことからも、安山岩は地球特有の岩石であり、地球のダイナミックな活動の証ともいえるでしょう。
安山岩は、その成因の多様性と物理的な特性から、地質学・建築・文化の各分野において重要な位置を占める岩石です。
まとめると、安山岩は単なる火成岩の一種ではなく、地球内部の動的な活動や地質学的な進化を理解する鍵となる岩石です。その成分や生成過程、さらには人類の歴史との関わりを通じて、安山岩の価値と重要性を再認識することができます。今後も、地質学的研究や建築資材としての応用が進むことで、私たちの生活や科学にさらなる貢献をもたらすことでしょう。